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コラム

心身医学

胃痛の原因は機能性ディスペプシア?

機能性ディスペプシアという病名をご存じでしょうか?胃潰瘍、十二指腸潰瘍、慢性胃炎と同様に病院でつけられる病名です。日本は世界でも有数の国民皆保険制度が整った国で、一部の例外を除き保険で治療を受けることができます。医者が患者さんを診療し、その報酬を保険組合などに請求する時には認定登録された病名が必要です。「機能性ディスペプシア」という病名は2013年に登録された新顔です。では、最近発見された新型の病気かといいますとそうではありません。

医師を始めとした医療関係者はある病気を診療する際に、最善と思われる治療に近づけるために「診療ガイドライン」というマニュアルを参考にすることが多くなってきました。高血圧、糖尿病などの国民病(生活習慣病)をどのように治療したらよいかということで、それぞれの診療ガイドラインがあります。実はこの新規の機能性ディスペプシアにつきましても、2014年4月に3万人余りの学会員数を有する日本消化器病学会から診療ガイドラインが発刊されました。それによりますと「機能性ディスペプシアは症状の原因となる器質的、全身性、代謝性疾患がないにもかかわらず、慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心する腹部症状を呈する疾患」と定義されました。心窩部とはみぞおち(鳩尾)の部分に相当します。従いまして心窩部痛とは胃痛ということになります。器質的、全身性、代謝性疾患によって胃痛や胃もたれがおきる病気として、それぞれ胃潰瘍、膠原病、糖尿病などがあります。

「なぜ、胃が痛むのか?」これに対する明確な回答は実はないのです。私は消化器内科と心療内科の専門医であり、とりわけ医者になってからこの疑問と向き合っていますので30年以上です。慢性的に胃が痛くて病院を受診する人の中で、器質的(目に見える)病気である胃潰瘍、胃癌などが見つかる割合はせいぜい1~2割です。残りの多くは機能性ディスペプシアとなります。「そうか!機能性ディスペプシアという病気だから胃が痛いのか!」と患者さんが納得できる状況を進めることが消化器心療内科医である私の使命の一つです。

内視鏡検査(胃カメラ)を受けたことがある方は多いかと思います。胃の表面(粘膜)に赤みがある、凸凹がみられる場合、一部胃粘膜をかじりとって(生検)、顕微鏡で癌などの判定をします。意図せず舌や頬の粘膜を噛んで飛び上がるほどの痛みを経験することがあります。しかし、胃では生検をするときに「痛い」ということはまずないです。何故でしょう。不思議ですね。胃の症状はこのような傷で起こされるのではなく、胃が強く収縮する(胃のこむら返り?)、粘膜が敏感になっている(感受性が高い)、神経質になっているなどが胃痛発生に深く関係していることが分かってきました。

心身医学ではストレスと胃の過剰な収縮について古くから研究されてきました。また、不安や気分が晴れない状態(抑うつ)では痛みが強く感じられることが最新の脳画像検査からも明らかになっています。目に見えない病気の一つである「機能性ディスペプシア」が病名に登録され、日本消化器病学会からのガイドラインでも心療内科的治療が有用とお墨付きをえた今日、慢性の胃痛・胃もたれで悩んでいる患者さんの治療に深く、長く関わる心身医学、心身医療の貢献が求められています。楽しみであると同時に責任をさらに感じるこの頃です。本日、土曜日外来を受診した患者さんと胃痛への対応について協議しました。薬は増えませんでした。しかし、通院してその痛みが意味するところを探り合う、ストレスにうまく対応できているところを共に喜ぶ。そんな治療を目標にしています。

星ヶ丘マタニティ病院(名古屋) 内科・心療内科
金子 宏

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