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コラム

心身医学

「医学的に説明できない症状」って?

私が最近関心を持っている概念がこの「医学的に説明できない症状」で、英語では、Medically Unexplained Symptom といい、MUSと略されています。これは文字通り、様々な症状があり、十分な診察や検査等をしてもその原因を医学的に説明できない状態を指しています。

似たような表現として、「不定愁訴」というのがあります。めまいやふらつき、のぼせや火照り、動悸、しびれ感などを訴えて受診した際に、さほど重症感が見られない場合には、「不定愁訴」という言葉が頭に浮かぶ医師は少なくないと思われます。もちろん、これらの症状を自覚する時に内科的な原因がしっかりあることもありますので、まずはそれらの病気の有無を検索することが必要になります。その結果、原因となる異常が見つからなければ「やっぱり不定愁訴」ということになってきました。そして、内科的な病気ではないので、心療内科に行ってみなさいという運びとなるのです。しかし、これはあながち間違いというわけではありません。病気がないにも関わらず何か病気があるように感じてそのように振る舞ってしまう状態を「心気症」といい、不定愁訴と受け取られることがあります。また、何らかのストレス状態が続いた場合は、自律神経系や内分泌系(ホルモン)の作用に歪みが生じて、様々な症状が現れてきます。ですので、どちらも「心」は関係しているのです。

MUSに戻ります。MUSの概念は日本ではまだそれほど広まっていないのですが、海外、特にヨーロッパではMUSについての研究が盛んに行われており、その頻度や治療法などについて、数百もの論文が出ています。ヨーロッパではかかりつけ医(GP)制度を採り入れている国が多く、患者さんはまずそのGPに受診しなければなりません。原因がはっきりした病気は必要に応じて専門医に紹介することができますが、MUSは自分で対応できなくても適切な紹介先がなく、長らくGPの元に留まることが推察されます。そうするとGPは困り果てるため、このように研究が進んでいるものと思われます。

心療内科で患者さんを診ていると、MUSと考えざるを得ないけど、どのように詳しくお話を聴いても、身体症状が出るような心理的原因や、ストレスの源が見つけられないことがあります。こうなると、心療内科医といえどもお手上げ状態です。心身医学は、心身症の症状が出るメカニズムとして「心身相関」を重要視してきました。すなわち、身体症状の背景には何らかの心理社会的背景があるという考え方です。このような流れがあったために、患者さんの中には、そのような背景がはっきりしない方があるということにも気付きながら、長年それに対しては手を打って来なかったように思われます。

先ほどのMUSについての最近の論文を読むと、最近の脳科学における知見から、このような状態に対する回答が出始めていることがわかります。どういうことかというと、身体的な原因なく症状を感じる方は、脳や神経系が過敏になっているために、ちょっとした身体感覚が大きく増幅されて気になる症状として感じてしまう(身体感覚増幅)。あるいは、私たちは普段は外界からの多くの刺激をフィルターで処理して、必要な情報だけを脳に送っているのですが、何らかの機序でそのフィルター機能が低下すると、直ちには必要でないような情報も脳に送られ、その結果として感じなくてもいい症状を感じてしまう、という説もあります。

では、そのような症状にはどのように対応すればよいのでしょう。この解決の骨子は、「何らかの心身の原因」 → 「身体症状」という「呪縛」から脱することです。身体症状を強く感じる方は特に、「何か大変な原因がある(隠れている)」から「重大な病気に違いない」と確信してしまうのですが、ここを変えてゆかなければなりません。まずは、丁寧な聞き取り、診察、検査をして、症状を引き起こすような(心身の)原因がないことを保証し、それでも症状を感じてしまうことがあることもまた、上に書いたような説も紹介しながら説明します。それでも、これまで「因果論」に支配されていた私たちには、そう簡単にこのような発想の転換を受け入れることは難しいかもしれません。デンマークでは、MUSに対応するGPのためのプログラムや、患者さん向けの治療プログラムが既に行われています。このような先駆的な取組を日本でも採り入れて、感じなくてもいい症状に悩む方々が少しでも楽になれるように、今後取り組んで行きたいと考えています。

この書籍は、最近、聖路加国際病院心療内科の太田大介先生が翻訳されたものです。やや専門的にはなるのですが、近年の不定愁訴についての考え方がよくわかります。太田先生は、デンマークのFink先生(原典の著者のお一人)の所に短期留学中で、その土産話を大いに期待しています。

香川大学医学部医学教育学講座
岡田 宏基

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