文字サイズ
会員専用ページ

一般の皆さまへ

コラム

心身医学

病気をしてよかった!? ―心身医学の目指すもの

心療内科医として診療していて、患者さんから「この病気をしてよかった。自分が変わった」というニュアンスの言葉をお聞きすることがあります。病気をしてよかったというのはおかしいと思われるでしょうが、このような場面に時々遭遇します。そして、この時の患者さんは、心理的により自由にそして明るくなっています。治療者にとってはこの言葉に安堵し、この仕事をしていてよかったと感じる瞬間です。私が診療の際に重要視していることですので、これについて少し触れてみたいと思い、ペンを取りました。

心身医学の考え方の一つに「成長モデル」というのがあります。通常の治療では症状を消失させることが目標となりますが、「成長モデル」では自己実現に近づくことが目標となるのです。つまり、ある病気にかかり、その治療を受けることによって、その人が人間的に成長し、本来の自分自身に沿って生きていくようになるということです。言葉を換えれば、症状を克服するために必要なこととは、とりもなおさず患者さんが成長することなのです。端的に言えば成長することと引き替えに病気がよくなります。時として、成長するために病気になったとさえ考えられるケースにも遭遇します。

病気を因果論的にとらえると、ある原因により病気になりその原因を取り除けば病気が治るということになりますが、視点を変えると、病気に罹患することはその人の人生の流れの中で何らかの意味があると考えることもできます。

日常的に暴飲暴食をする人が腹痛を起こして頻繁に夜間救急に搬送される場合を考えてみるとわかりやすいと思います。身体症状は自分自身に対するある種の警告と考えられますが、治療者が「もう暴飲暴食はやめましょうね」と忠告したところでこの行動が是正されないことはおわかりと思います。なぜならば、この様な行動が習慣化されるに至るさまざまな流れがあるはずです。心身医学的アプローチの特徴はそこまで踏み込んで患者さんの行動や認知を変えていくことにあります。何に対する警告なのかがわかりにくい場合もあり、この時には本人自身も気づいていないことが多く、それを見つけることは決して容易ではありません。患者さんの幼小児期の生い立ち、生活歴、性格、考え方、生活環境などさまざまの情報から推測することになります。

警告は、日常行動のほか認知面、対人関係面など、さまざまなことに対して発せられます。たとえば完全主義的思考や行動、過剰適応傾向、抑圧的傾向、他責性などです。これらと症状との関連性に気づいてもらい是正していくことが治療につながります。これらの特徴が現れるには往々にして深い原因があるものですが、必ずしもそこへ立ち入らなくとも治療は可能です。これらの特徴に気づいて修正することは患者さん自身が行うことですが、治療者は、その修正が適切に行われるよう援助する役割、あるいは立会人的な役割を担います。その結果、冒頭に書いたような台詞が患者さんから述べられることになります。

誰しも修正すべき何らかの問題を抱えていますが、その問題の重さ、深さ、その人の気づき、スキルなどによってその問題の解決法が異なってくるでしょう。ある人はごく普通の日常生活を送りながら少しずつ修正していくことができます。一方、自分の力のみでは十分な変革が行われないと無意識に感じ取った人は身体症状などを呈して医療機関を受診するのかもしれません。この際、身体症状の軽減のみを目標として治療が行われるのであれば、本来の受診目的は達成されないままになってしまいます。そして同じ症状を繰り返したり次から次へと異なる疾患で苦しみ、悩むことにもなりかねません。

精神科医で心理学者であるユングは「神経症はまさに自己治癒の試みなのであり、どのような身体疾患もある程度は自己治癒の試みであるのと同じです。」、また「ノイローゼは、その人間の貴重な萌芽を発展させるような生活へとその人間を強制しているのだ。」と述べていますが、まさに疾患がその人間の成長を促していることを物語っているといえましょう。

最後に付け加えさせていただくと、このような患者さん達に数多く接してその流れに立ち会えることは、治療者自身にとっても成長の糧となるものなのです。

盛岡友愛病院心療内科
千葉 太郎

  • 研修会・講習会・関連学会の情報
  • 利益相反(COI)
  • 各種申請について
  • 東日本大震災について 本学会の支援活動
PICK UP INFORMATION
  • 学会情報
  • 学会誌「心身医学」
Page Top

Copyright © Japanese Society of Psychosomatic Medicine. All Rights Reserved.